06】分娩時: ₀₂₎「無痛分娩について心配されている」書込みへのお返事

「マスコミに報道された無痛分娩の事故について心配されている」書込みへのお返事

Reply to a patient’s question about painless delivery(Lavor analgesia)

【書込み】
2人の子がいる32歳の経産婦です。厚労省が無痛分娩の安全対策に関する提言をしました。次に出産するなら無痛分娩がいいと考えているのですが、死亡事故や重度障害も出ているようで不安です。先生はどのようにお考えでしょうか。

 

【お返事】
マスコミで、無痛分娩による死亡事故や重度障害が報じられたために、短絡的に「無痛分娩で事故が多発している、危険」というイメージが強く与えられた様です。
確かに何をするにも危険が伴います。何をするにも危険が0ではありません。HPの{ 73】すべとの事柄が天秤がかりです。医療行為も同様です }も一度ご覧になってください。

 

2010∼2017の8年間で約1000万人が分娩がありました。(その間に平均5%位の方が無痛をしているのでTotalで50万人の方が無痛分娩をされています)。
8年間で1000万人の分娩された中で、妊産婦死亡が271人ありました。確率は3~4万人の分娩中1人です。妊産婦死亡271人中14人が無痛分娩をしていました。
この14人は、たまたま妊産婦死亡の時に無痛をしていたというだけで、それが原因で妊産婦死亡になったのではありません。マスコミはその点を良く調べないで「14人が無痛分娩中に死亡した」と読者の気を強く引く表現で報道しました。
殆どの読者が「無痛分娩が原因で14人が死亡した」を思いました。
実際には純粋に無痛分娩が原因で亡くなられた方は、無痛分娩をしていた14人中1人だけです(8年間でTotal  50万人が無痛分娩されましたが、無痛が原因で亡くなられ方は  50万人中の1人です)。亡くなられた原因を良く調べると、気を付ければ防ぐことができた状況だったようです。

♥結論を言うと、日本でも世界でも「無痛分娩では妊産婦死亡はほとんど増えない」ということになっています。危険は0とは言えませんが。危険率は1人/50万人の確率です。
In conclusion, in Japan and around the world, there is almost no increase in maternal mortality in painless delivery.  The risk is not completely zero, but the risk is very small, 1 in 500,000 people.

 

他の確率と比べてみてください。Compare with the other risks.
●交通事故死(Traffic accident death)1人/10000人、 ●子宮癌(Uterine cancer)1人/3000人、 ●2∼3歳児の死亡率(Mortality rate for children aged 2 to 3 years)(人生で最も低い)1人/2500~3000人、 ●薬のアナフィラキシーショック(Anaphylactic shock death)=薬のアレルギー(Medicine allergy)で亡くなられる方1人/数十万人(1 in hundreds of thousands people)、 ●周産期死亡率(分娩前後での児の死亡率)1人/280人(日本は世界で最も低い)、 ●血栓症のリスク1人/2000~1万人、

 

車に乗る}危険性:必要性(利便性)
自転車に乗る}危険性:必要性(利便性)
包丁で調理する}危険性:必要性(利便性)
?必要性(利便性)が、危険性をはるかに上回る場合には行います。無痛分娩も同じです。?希望されるか、されないかは最終的にはご本人様又ご家族の方に決めていただいています。

 

無痛分娩は、「痛くてどうしょうもない。のたうち回っている。それが何時間も続いている」「分娩が長引いていて苦痛」「産道が硬くて児が下降しないので無痛分娩の麻酔をして産道を弛緩させる」「胎児の状態が悪いので、緊急帝王切開がいつでもできる様に帝王切開の準備の意味も含めて無痛の麻酔を入れる」「胎児の状態が悪いので、吸引又は鉗子で緊急に胎児を引っ張り出さなければならない時、無痛の麻酔(硬膜外麻酔)が入っていると産道が弛緩するので引っ張り出しやすくなる」のような必要性が高い場合には、是非行います。

 

無痛の麻酔と、帝王切開の時に通常行なわれる麻酔と同じ麻酔です。使う麻酔薬の量が違うだけです。無痛分娩の場合は完全に痛みをとる必要が無いので麻酔量は帝王切開の時の1/20位しか使いません。緊急帝王切開が必要になった場合は、完全に痛みをとる必要があるので、無痛の時の20倍の量を注入します。(無痛分娩の時に挿入した硬膜外麻酔のチューブが帝王切開の麻酔の時にも使えます)。

 

♥無痛の麻酔(硬膜外麻酔)が入っていると、「分娩途中で胎児の状態の悪化した時に、吸引、鉗子分娩、帝王切開がしやすくなります。又分娩中や分娩後の母体の大出血にも手術等の対応がしやすくなる」ので、分娩の安全性が高まります。
Painless delivery may increase safety of delivery, because doctors can treat quickly to emergencies that may occur during delivery.  The benefits of painless delivery are much greater than the disadvantage.

 

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06】分娩時: ₀₁₎無痛分娩:方法、費用❀❀❀

無痛分娩

米国では約60%(2008年)、フランスでは80%(2010年)、イギリスでは23%(2006年)、ドイツでは18%(2002∼2003年)、ノルウェーでは26%(2005年)の方が無痛分娩の麻酔を受けています。特に「無痛を希望しません」と断らない限り通常は無痛分娩をする国もあるようです。
健康保険で無痛分娩ができる国もあります。日本では無痛分娩される方は3%→5%→6%(超最近では6%)に増加しています。
%(数字)は、統計の取り方や、データの出処により、多少異なります。

無痛分娩していても、陣痛が来る感覚はあり、息むタイミングもわかります。麻酔を少なめにして「赤ちゃんが出てくる感覚、息む感覚が感じられる」程度に感覚を残して麻酔することもできます。

デメリットとして、無痛の麻酔をしていると若干陣痛が弱めになり分娩時間が多少長引きます。しかし困るほどではありません。陣痛が弱めでも分娩は進行していきます。(陣痛の間隔は多少伸びますが1回あたりの陣痛は強く来ています。無痛の麻酔をしているからと言っても、必ずしも陣痛促進剤を投与したり、吸引や鉗子分娩する必要はありません。待っていれば自然に進んで自然に生まれます。又無痛の麻酔が入っているのでゆっくり落ち着いて、自然に赤ちゃんが出て来るのを待っていられます。)

無痛分娩すると、硬い産道が軟らかくなって産道の抵抗が減る為、赤ちゃんにストレスがかかりにくくなります。

赤ちゃんの可愛さは、どんな出産方法でも同じです。「陣痛の痛みに耐えてこそ、赤ちゃんが可愛い、母性がわく、母になる資格がある」と日本では言われますが、それは無痛が無い時代の「陣痛で苦しんでいる産婦」を励まし耐えさせる言葉です。出産で疲れ果てて「もう赤ちゃんの顔も見たくない、見る余裕がない」となるより、無痛をしたほうが疲労しないので余裕をもって赤ちゃんに接しられます。

 

無痛分娩の方法:
硬膜外麻酔を行います。
腰骨の間に細い柔らかいプラスチックのチューブ(カテーテルとも言います)を入れます。針は抜いてしまうのでチューブだけが入った状態になります。細い柔らかなチューブを通して非常に薄い麻酔薬を少量ずつ注入します。

麻酔薬は注入後8~10分で効き陣痛の痛みがほとんどなくなります。麻酔薬は2時間くらい効いています。2時間位すると麻酔が切れて陣痛の痛みが出てきますから、痛みを感じたら看護師にCallして麻酔を追加注入してもらいます。

無痛で使う麻酔は非常に薄いので、かなりの量を使っても使い過ぎにはなりません。痛みを感じるようなら看護師にCallしてさらに再度追加注入してもらいます。
せっかく無痛が入っているのですから十分に痛みをとります。

特に児娩出の直前では、陣痛の痛みのクライマックスなので、痛みが非常に強いので、その時期には(短い時間ですが)多めに麻酔量を使うことがあります。

      

上図斜線部分が、無痛分娩時に、痛みが無いか、ほとんど無い部分です。

無痛分娩の時の麻酔も、帝王切開の時の麻酔も、同じ麻酔法で、硬膜外麻酔です。鎮痛される領域もほぼ同じで、ミゾオチより下の下半身です。
ただし
無痛分娩の時は非常に薄い麻酔少しずつ使います。帝王切開の時は濃い麻酔を一度に使います。

 

無痛の麻酔を始める時期:
基本的には、陣痛が始まって痛みを感じたら硬膜外麻酔のチューブを入れます。

自然分娩の途中で無痛分娩に切り替えることもできます。

患者様によっては「陣痛を我慢できるところまで我慢してみて、我慢できなくなったら無痛をしてください」という方もいますし、患者様によっては「陣痛が始まったらすぐに無痛をしてください」という方もいます。

特に初産の方は、「陣痛がどのくらい痛いものか、我慢できる痛みなのか、我慢できない痛みなのか」経験してから無痛をしたいという方が多いです。
初産の方では「陣痛を我慢できるところまで我慢してみて、我慢できなくなったら無痛をしてくださいという方が多いです。

2人目、3人目の分娩の方は、前回さんざん痛い思いをしたので、今回は陣痛が始まったらすぐに無痛してくださいという方が多いです。

飯能産婦人科では無痛ができる医師がほとんど常にいるので、希望された時にいつでも24hours無痛をします。(日曜と木曜の日中だけは無痛できません) 。
絶対に無痛分娩希望という方は、日曜と木曜日に当たらないように、計画分娩することもあります。

 

無痛分娩のどのくらい効果がある?:
無痛分娩(硬膜外麻酔)に習熟している医師が行うとほぼ完璧に効きます。最後の児娩出迄ニコニコして分娩できます。
(皮下脂肪の非常に厚い方は無痛が少しやりにくいことがあります。難易度が上がります)

無痛分娩の利点:
楽ちん分娩、分娩が長引いても、児娩出まで長時間、楽に待機していられます。confidentsleepy
苦痛で、もがき苦しんでいる時、しかも長引いている時はご本人も消耗しきって大変だし、付き添いの方も大変なので、無痛をお勧めします。
看護師や助産師や医師からもお勧めの声をかけます。

無痛をしていると、産道が弛緩して胎児が下降し易くなり帝王切開になる確率が減ります。
難産で分娩が長引いている方には特にお勧めします。

無痛をしていると、産道が弛緩して軟らかくなり広がるので大きな赤ちゃんが出て来ても大きな会陰裂傷ができにくくなり、会陰切開する率も減ります。
会陰裂傷の縫合も麻酔が効いているので痛くありません。

分娩の進行中に産道内で胎児の状態が悪くなることが多々あります。胎児仮死とか胎児機能不全と言います。そのような時は、急いで胎児を娩出して救出する必要があり、吸引分娩や鉗子分娩で胎児を引っ張り出します。
無痛している(硬膜外麻酔をしている)と産道が弛緩して軟らかくなり広がるので、吸引や鉗子で胎児を引っ張り出しやすくなります。
胎児仮死等で、吸引や鉗子分娩が必要な時には、産道を弛緩させる目的で、吸引や鉗子分娩の直前に、急いで無痛をすることがあります。

産道内で胎児の状態が悪くなることが多々あります。胎児仮死とか胎児機能不全と言います。その時、すぐに無痛の麻酔をします。
無痛の麻酔をすると陣痛の痛みが無くなり、子宮筋の異常収縮が減り、子宮や胎児の血液循環が良くなり、胎児の状態が良くなることが度々あります。
又無痛の麻酔が入っていると、「緊急帝王切開が必要な時にすぐにできる」ので、胎児の状態がさらに悪くなったときに、「帝王切開がすぐにできるように準備する」という意味があります。
無痛の麻酔(硬膜外麻酔)と帝王切開の麻酔は同じです。使う麻酔薬の濃さや量が違うだけです。無痛の時は非常に薄い麻酔薬を使いますが、帝王切開時は濃い麻酔薬を使います。
硬膜外麻酔のチューブが入っていると緊急帝王切開が必要な時には、濃い麻酔薬を入れて直ちに帝王切開に切り替えられるので、突然の胎児仮死時にsoon 超々緊急に胎児を娩出して胎児を救出することができます
胎児仮死等で、緊急の帝王切開になる可能性がある場合は、帝王切開の準備の目的で、急いで無痛の麻酔(硬膜外麻酔)をすることがあります。

妊娠高血圧症候群の方に無痛分娩すると血圧が下がります。妊娠高血圧症候群の方には無痛を行います。
児の娩出が近くになって陣痛の痛みがクライマックスになると血圧は上がります。無痛をしているとそのような時でも、陣痛の痛みが無くなり、過度な努責がなくなるので、血圧上昇が少なくなります。又
分娩進行中に急に血圧が上がって母児ともに危なくなって緊急の帝王切開が必要になった時でも、麻酔が入っているのですぐに緊急帝王切開を開始できます。

心臓病がある方、緑内障がある方は、陣痛の強い痛みがあったり過度の努責があると母体が危険になるので、無痛をして静かに分娩させます。

無痛分娩の危険性:
2万人無痛分娩して合併症は0です。どんな医療行為にも合併症,副作用は程度の差はあれ必ずつきものですので、絶対ないとは言えませんが0に近いです。
(道を歩いても、自転車に乗っても転ぶ危険性は0とは言えませんが0に近いです)

 

硬膜外麻酔(無痛)で麻酔薬を安全に注入する方法(コツ)
基本的には、硬膜外麻酔のチューブ挿入後は、陣痛の痛みに応じて、チューブから麻酔薬を約2時間毎に定期的に注入しますが、
麻酔薬の安全な注入法は、①濃度の薄い麻酔薬を、様子を見ながら、②回数を分けて頻回に、③少量ずつ、注入する事です。

 コツは、
非常に濃度の薄い麻酔薬を使う事、

一度に多量に入れずに回数に分けて頻回に、

少量ずつ、又、効き方はどうか、副作用は出ていないか、こまめに観察しながら注入する事です。
濃い麻酔薬を、一度に、多量に入れると危険なことがあります。

❹確率は0.15~0.18%で少なく例外的ですが、硬膜外に正しく入っていたチューブが、麻酔中に何の誘因もなくクモ膜下腔に入って脊椎麻酔になってしまうチューブの迷入ことがあります。その為、硬膜外麻酔が脊椎麻酔に変わっていないか、を常に注意しながら少量ずつ入れる事がコツです。

❺硬膜外血腫。起こる確率は15万人~20万人に1人で極々稀ですが。硬膜外麻酔のチューブを抜く時に起こることが多いです。
手術直後でHeparin注射を行っている為血液が固まりにくい状態になっている人は、チューブを抜くタイミングに注意します。

 

費用:
5~10万~15万~20万(10万弱の事が多い)の病院が多いですが、当院では1分娩につき、1万円で行っています(’19.2.6以降から申し込まれる方は3万になります)。その為希望される方がが多いです。
医師としても、「分娩が長引いている方、非常に苦しがっている方や、胎児仮死の為吸引や鉗子分娩が必要な方や、胎児仮死の為帝王切開する可能性のある方」、には無痛を是非したいのですが、1万円なので勧めやすいし、やりやすいです。moneybag
10万近くだと、費用が掛かって気の毒で、医師としても勧めたい」①②③時に、又「緊急の処置や手術の準備の意味もあって無痛が必要」④⑤に、勧めにくいし、やりにくい、という状況になってしまいます。moneybag

 

2016.12.25、日経新聞の「無痛分娩」の記事も御参考にしてください。ご希望の方は当院受付でコピーを差し上げます。

Dr.関口は、1980年から40年近く無痛分娩を行っていてます。

 

【硬膜外無痛分娩】照井克生、   周産期学会誌’11、 産科と婦人科’15、 【母体安全への提言】’15、 プレママタウン、  産科麻酔学会HP ’17  日本臨床麻酔学会誌’10(Vol30.No5.897~900.2010)

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