【血栓症】
血栓症には2種類あります
①動脈血栓症: 脳や心臓の動脈に血栓(カサブタの様な血の塊)ができて、血管を詰まらせ脳血栓や心筋梗塞を起こします。高齢者の方に起ります。
②静脈血栓症: 主に下肢の静脈に血栓(血の塊)ができます。それが突然流れていき、肺や脳や心臓の血管を詰まらせ突然、肺血栓塞栓症や脳血栓症を起します。若い健康な方にも起こります。男性より女性の方が起こりやすいです。産婦人科で問題になるのは、この静脈血栓症です。
静脈血栓症ができやすい状況とは
①手術直後(特に帝王切開術後、特に肥満の方や高齢の方に)
②長期の安静臥床、長時間同じ姿勢(Echonomy Class症候群、ロングフライト症候群)。
エコノミークラスではなくてもビジネスクラスやファーストクラスでも起ります。「エコノミークラスではないから安全」とは言えません。長距離の電車やバスでも起ります。長距離トラックの運転手、タクシーの運転手でも起ります。災害時の車中泊でも起ります。つまり長時間同じ姿勢でいることが問題と言われています。
③妊娠末期、分娩前後。
④重症妊娠悪阻症(重症のつわりで水分も十分摂れず脱水状態の時)。
脱水状態では血液が濃縮して固まりやすくなるので血栓ができやすくなります。
⑤Pill服用時(特に服用開始後の3か月間に)
⑥Heavy Smoker(1日15本以上)
⑦高齢者(産婦人科では、35歳以上の方)
⑧肥満(中等度肥満BMI≧30、高度肥満BMI≧35)
⑨静脈血栓症の家系
⑩血液検査の結果、プロテインS欠損症,プロテインC欠損症,抗リン脂質抗体症候群の方。
血栓症が起こる確率(1万人中に起る確率)
普通の女性(非妊時、Pill服用無): 1~5人
Pill服用中の女性 : 3~9人
妊娠中(妊娠進行中)の女性 : 5~20人
産後(3ヵ月)の女性 : 40~65人
✥Pill服用中の女性は血栓症が起こる確率が確かに多少高くなりますが、妊娠中や産後の女性よりは、はるかに少ないです。
✥参考(他の確率との比較): 子宮癌の確率:1人/3000人中、 2~3歳児の死亡率1人/2500~3000人中、 胎児奇形発生率:1人/100人中、 周産期死亡率(分娩前後で児が死亡する確率):1人/200人中(日本は世界最少です)。
血栓症の初期症状
下肢の静脈に血栓ができて血管を詰まらせる状態です。
右より左下肢に血栓ができやすいです。
下肢(特にふくらはぎ)の腫れ(血栓症の方の47%に起きます)、浮腫、痛み(26%)、しびれ、血栓部分の皮膚が炎症し下肢が発赤します。ふくらはぎを掴むと痛い。脱力感、麻痺。
血栓症でもこのような症状がない方もいます。
この様な初期症状が一時的ですぐにおさまっても、必ず受診してください。
肺血栓塞栓症、脳血栓症の発症、症状:
①下肢の血管の血栓症状: 突然の下肢の腫れ、浮腫、痛み、しびれ、発赤、ふくらはぎを掴むと痛い、脱力感、麻痺。
②肺の血管の血栓症状(肺血栓塞栓症状): 突然の息切れ、呼吸困難、胸痛。
③脳の血栓症状(脳血栓症状): 突然の激しい頭痛、舌のもつれ、喋りにくい、嘔気、嘔吐。視力障害(見えにくいところがある、視野が狭くなる)。
④心臓の血栓症状(心筋梗塞症状): 突然の激しい心臓に近い部分の胸痛、胸が締め付けられる苦しさ。
予防法:
✥長時間同じ姿勢を続けない。
a)定期的に立ち上がって歩く。
b)術直後の方はベッドの上で体を少しずつ動かす。
c)術直後の方には、病院では、術後2日間位、血栓予防の(ヘパリン)筋肉注射,下肢に空気マッサージ器を装着し、下肢に弾性ストッキングを装着。又早期離床(術後早目に歩いていただきます)。
✥イスに座ったままできる体操。
a)上体の左右への捻り。
b)肩の大回しや上げ下げ。
c)足首回しと足首の曲げ伸ばし。
d)椅子に座ったまま足踏み。
e)膝の屈伸
✥脱水状態にならないように水分補給。スポーツドリンクの様な電解質液で。
✥禁煙
✥肥満にならないように。(中等度肥満BMI≧30、高度肥満BMI≧35の方は改善お願いします)。
血栓症ができやすいかどうかの検査< /span>
D-ダイマーを血液検査で調べることが、簡便で費用が掛からないので勧められ。Pill服用中の方は6か月毎に測定します。
血栓ができて血管を詰まらせてしまった時(血栓症発症時)の治療法
①血栓融解療法: 注射液で血栓を溶かします。ウロキナーゼや組織プラスミノーゲン活性化因子を使います。
②血管内治療法: 血管内に細いカテーテル(チューブ)を入れて、血栓の近くまで進めて、a)血栓の傍に血栓を溶かす薬液を注入、b)血栓を砕く、c)血栓を吸引する。
血栓ができないように普段から抗凝固療法をする
血栓ができやすい方、以前に血栓ができたことがある方は、普段から予防的に次の事を行います。
①ワルファリン内服、又は ②ヘパリン注射を毎日(自宅で自己注射することができます)
Wikipedia、 国立循環器病研究センター、 YAZ パンフレット、 マーベロン パンフレット、 ガイドライン産科編’11、’14