性感染症治療について

性感染症とは、性交渉によって感染する病気のことです。
性交渉によって感染する病気を「性感染症(STD)」といいます。
特にパートナーが変わりやすい若い世代(10代後半~20代)への感染の拡大は深刻で、近年増加の傾向がみられます。
「病気を移されたのでは…」と、ご心配なときには早めに検査を受けていただくこと、また感染してしまった場合は、パートナーと一緒にすぐに治療を受けることが大切です。
感染症はほとんどの場合自覚症状がなく、本人も感染に気づかないまま性交渉をし、相手にうつしているケースも多いようです。
性感染は、男性より女性のほうが1.3倍も高く、ダメージも大きい傾向がみられます。また、感染に気付かないまま症状が進行すると重い婦人病疾患や不妊症につながることもあるので、少しでも何かおかしいなと感じたら、早めに検査を受け治療を行なうことが大切です。
- 母子感染
胎盤や出産時に産道で感染することを垂直感染といいます。このような感染を予防するためにも、妊娠中には積極的に性感染症の検査を受け、治療や出産方法などについて主治医と相談する必要があります。 - ピンポン感染
パートナーの片方が性感染症にかかった場合、その後の性行為によって病気をうつしてしまう可能性があります。
本人が治療して治っても、パートナーも治療しなければ、その後の性行為によって再び感染してしまいます。
こうしたピンポン玉のやりとりのような繰り返しを防ぐため、どちらかが性感染症と診断された場合は2人同時に治療することが大切です。
当医院では、頻度の高い性感染症について、腟の分泌物(おりもの)を採取して検査を行っておりますので、ご心配の方は是非ご相談下さい。
梅毒
梅毒は、トレポネーマ・パリーズム(スピロヘータ・パリダ)という微生物の感染によっておこる慢性の伝染病です。
トレポネーマは、肉眼では見えない長さ15ミクロン(1ミクロンは1000/1mm)ほどの細長い、よじれた糸クズのような形をした微生物で、多くは性交や性交類似行為により、皮膚や粘膜から体内に侵入して感染をおこします。
しかし、まれに医療従事者がトレポネーマに接触して感染(無辜感染)したり、梅毒患者の血液の輸血を受けて感染(輸血感染)したりします。また、母親が梅毒にかかっているため胎児が子宮内で感染を受けること(先天梅毒)もあります。
- 妊婦梅毒
母体の梅毒が胎児に影響するのは、胎盤が形成(妊娠4ヶ月)以降なので、妊婦の梅毒は遅くとも妊娠4ヶ月以内に発見して、充分な治療を行なうことが必要です。
先天梅毒に対して、出生後に感染を受けたものを後天梅毒と呼んでいます。
梅毒は、病期によって大変特徴のある症状を示しますが、その経過から
・第1期…感染してから3ヶ月まで
・第2期…感染後3ヶ月から3年まで
・第3期…感染後3年から10年まで
・第4期…感染から10年以上
の4期に分けられます。
また、第2期までを早期梅毒といい、様々な梅毒の症状が現れ、感染力も強いのですが、この時期に適切な治療を開始すると、ほぼ完治が可能です。
第3期以降は、晩期梅毒と呼ばれ、梅毒の症状は表面に現れることが少なく感染力も弱いのですが、この時期になると適切な治療を開始しても完全に治らないこともあります。
また、梅毒の症状がみられるものを顕症梅毒、トレポネーマの感染を受けていても症状がみられないものを潜伏梅毒といいます。
治療は、ペニシリン系薬剤によるものが中心です。
ペニシリンのほか、セファロスポリン系、マクロライド、テトラサイクリン系などの抗生物質も有効ですが、ペニシリン過敏症のある場合を除いては、ペニシリンがもっとも効果的とされています。
クラミジア感染症
クラミジアは、目の結膜に感染してトラコーマをおこすほか、尿道や子宮頸管の円柱上皮細胞にも好んで感染します(尿道炎、子宮頸管炎)。
男性では、非淋菌性尿道炎の1つで、外尿道から出る分泌物で下着が汚れ、軽い排尿痛や尿道のかゆい感じがする程度の軽い病気ですが、女性の場合は子宮頸管炎を呈し、おりものが少し増える程度で感染しても知らずにいる人が多くいます。
しかし不妊症の原因の可能性もあり、妊婦の場合は赤ちゃんに感染し、4割がトラコーマ、2割が肺炎になると報告もあります。
数年来、クラミジアの簡便な検査方法が普及し、非淋菌性の尿道炎の多くがクラミジア感染と判明し、産婦人科でも予想外に多くの女性が感染している性行為感染症として注目されています。
治療には、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質がよく効きます。
ヘルペス感染症
ヘルペスウィルスの一種である単純ヘルペスウィルスが外陰に感染し、水疱や潰瘍ができる病気で、性交によって感染する代表的な病気です。
この病気は、急性型、再発型、誘発型の3つに分けられます。
- 急性型
単純ヘルペスウィルスの感染を受けてから短時日のうちに発症してくるタイプで、性行為などの感染の機会があってから3~7日目に外陰に軽いかゆみがおこり、そのあと突然発症してきます。外陰部の比較的強い痛みが主症状で、痛みのために歩行困難や排尿困難におちいります。発熱を伴いこともしばしばで、鼠径リンパ節が腫れ、押すと痛みます。
また、外陰部の左右の同じ部位に水疱が多発してきます。この水疱は、短時日のうちに破れて潰瘍になります。
このタイプは、性活動の活発な若い人に多いのですが、ときに50歳代の女性にみられることもあります。 - 再発型
水疱や潰瘍がくり返し現れるタイプで、すでに体内で潜伏感染していた単純ヘルペスウィルスが外陰に出現して発症します。
痛みなどの症状は軽いのが普通ですが、ときに強くなることもあります。
性交とは関係なく発症しますが、疲労や月経がきっかけとなって発症するのが多いものです。 - 誘発型
抗ガン剤や副腎皮質ホルモン剤などの免疫能を低下させる薬剤の使用、下腹部への放射照射、開腹手術後に発症してくるものをいいます。
発症する潰瘍は1~数個と少なく、症状も軽いことが多いのですが、免疫力が強度に低下したときには症状がやや強くなることがあります。
検査と診断
外陰の症状とその経過からほぼ見当がつきますが、病変部からウィルスを分解、同定したり、血液中にウィルスの抗体を証明することで確実に診断できます。
潰瘍のでき方がペーチャット病と似ていますが、ペーチャット病の場合は潰瘍のでき方が深いのに対し、ヘルペス感染症では浅いので区別できます。
治療
急性型は3~4週間で、再発型も1週間程度で自然に治るので、痛みを抑えるなどの対処療法が中心になります。リバノールを塗り、蛍光灯の光を照射する色素光線療法も効果があります。
アデニン・アラビノサイドやアシクロビアなどの新しい薬剤が臨床実験中で、その効果が証明されています。
淋病(淋菌性尿道炎)
性的活動期の人に多い
淋菌とういう細菌が、尿道に感染をおこす病気です。ほとんどは性交によって尿道の中に淋菌が侵入して発症する病気なので、性的活動期の男女に多く、老人にはまれです。乳幼児にはほとんどみられませんが、ごくまれに女児が風呂場の椅子や床などに座ることによって感染することはあります。 最近は、中学生・高校生などの世代にもかなりみられるようになってきました。 成人が風呂やプールで感染することはまずありません。
外陰部の粘膜から感染することが多く、会陰部が赤くただれたり、下着が汚れたりします。これは陰門膣炎と呼ばれ、男児にはありません。
そのほか、タオルや汚れた手などから淋菌性の結膜炎になることや、オ-ラルセックスなどによって淋菌性口内炎になることもあります。 淋菌は、まず膣内に侵入しますので、頸管膣炎をおこします。頻度は低いのですが、尿道炎、膀胱炎になることもあります。
早期に治療を受ければ、だいたい1~2週間で完治しますが、治療が遅れたり、治療を受けなかったりすると、合併症として子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎や腎盂腎炎のほか、関節炎た心内膜炎などをおこすこともあります。
後遺症としては、男女ともに不妊症の原因となるほか、尿道が狭くなって尿が出にくくなる尿道狭窄をおこすことがあります。 この病気でとくに注意すべきことは、「自分だけではなく相手も必ず治療を受けること」です。
排尿時に激しく痛む
男性の場合、淋病保有者との性行為後2~5日ぐらいたつと、外尿道口赤くただれて膿が出たり、排尿のときに尿道に灼熱感た激しい痛みがおこります。
女性の場合、男性と同じような症状のこともありますが、一般におりものが多くなり、陰部がかゆくなったり下着が汚れたりするだけのことも多いので、発見が遅れやすくなります。
このような症状の病気はほかにも多数あるので、心当たりのある場合は、そのことを医師に話しておかないと、診断が遅れることになります。
また、診察を受ける前に、素人判断で勝手に抗生物質をなどを服用すると、耐性菌をつくったり、病気を慢性化させたり、また誤診をまねく恐れがあります。少しでも早く、男性は泌尿器科へ、女性は婦人科か泌尿器科の診察を受けるようにして下さい。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマとは
HPVウイルス(ヒトパピローマウイルス)に感染することで、膣や大小陰唇などの性器やその周辺に米粒大から親指の頭くらいのイボ(腫瘍)が多数発生します。
イボが小さいく少ないうちは、痛みや痒みなどの自覚症状がないため、中々気が付かないのが現状です。症状が進みイボが大きくなってきたり、数が増え外陰部に姿を現し、不快感を覚えるようになって初めて気が付く患者さんもいます。
感染初期の段階では自覚症状がほとんどないため、性行為で男性に感染させてしまう場合が多く有ります。そうした二次感染を防ぐためにも、時々自分で指を挿入し、イボのような物がないかを調べてみるようにして下さい。少しでも違和感があれば、お早めに検査・診察を受けて下さい。
深刻な病気の可能性も
特に女性の場合は、膣内部や子宮頸部などに発症する事もあり、後に子宮ガン(子宮頚ガン)に発展する事例も少なくないので、男性よりもより深刻で注意が必要となります。
定期的に婦人科検診などを受けて、感染の早期発見・治療を心がけて下さい。
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)
1981年に発見された新しい病気です。
その当時は、原因が分からないが白血球が減少して病原微生物と戦う免疫機能が極度に低下し、治療困難な感染症をおこし死亡する病気として、後天性免疫不全症候群という病名が付けられ、英語の頭文字をとってAIDS(エイズ)という病名が広く用いられています。その後、病原ウィルスが発見され、このウィルスの感染は主に性的接触と血液によることが分かりました。
このウィルスが人体に感染すると、白血球(リンパ球)をおかし、その機能を破壊するために、免疫不全になることが分かりました。その後、このウィルスはリンパ球だけではなく、脳細胞もおかして脳障害をおこすこともわかりました。
現在は、病名もエイズウィルス感染症というべき伝染病です。
症状
- 潜伏期
エイズウィルスが身体に入っても、すぐに発病するわけではありません。数ヶ月~5年ぐらい無症状で、ウィルスをもっているだけの期間があります。
- 初期症状
エイズウィルスが体内に入ったひとのうち、10~30%の人は数年以内に次のようなエイズ関連症候群と呼ばれる症状が現れます。しかし、エイズウィルスに感染してもなんの症状も出ない「無症候ウィルス保有者」も約70%います。 - 微熱や38℃前後の熱が出たり下ったりを繰り返す。
- 身体のあちこちのリンパ節が腫脹し、グリグリができる。
- 異常に疲れやすい。
- 下痢が続く。
- 体重が急激に減少する。
- エイズの発症
いずれにしても、感染した人の約10%は数ヶ月~数年のうちにエイズウィルスによってリンパ球が破壊され「免疫機能不全状態」すなわちエイズに移行します。そうなると、健康なときには病気をおこさない細菌、ウィルス、真菌(カビ)、原虫などが繁殖を始めて、色々な感染症をおこします。その代表的な病気(主な症状)は、「カリニ肺炎(呼吸困難)」「カポジー肉腫(皮膚ガンの一種、できものができる)「カンジタ性食道炎(食物がノドを通らない)」などです。また、脳細胞がおかされて、記憶力の低下、錯乱、運動障害、痙攣などの精神障害もおこります。
- 経過
エイズ発症後の感染症は、発見が早ければほぼ完治することが出来るようになりましたが、その一方で、HIVは自分が生き延びるために薬に対する耐性を持つものも出現し、根本的な治療薬の開発を難しくしています。現在は、HIVの耐性を抑える薬が開発されたほか、感染症に有効とされるワクチンの開発や、遺伝子治療によってHIVが侵入してもダメージを受けないリンパ球をつくる研究などにより、予防と治療の両面からアプローチされ、その成果が期待されています。